マタタビなげこみたくなる衝動

cloudy weather. (後編)


天気、いまいち。

気温、低め。

ずっしりと空を埋めている雲。


「…ふあ…っ」

薄寒い昼間に、ちょっと遠くのメス猫のところから朝帰り。
ただ通り過ぎるだけのつもりだった民家の庭で、聞きなれた足音。

「えぃっ」

どうもひとり遊びをしているらしいので冷やかしがてら覗いてみると、案の定。
白色に近いクリーム色したメスの子猫が暴れていた。

鳥の羽がついたボール。
少し綿の出た四角い塊。

近くには人間に与えられたらしい遊び道具がいくつか転がっていたが、
彼女が夢中になっているのは…ただの紙くずだった。

風が吹くと少し転がる程度の、丸められたゴミ。
その『風が吹くと自主的(?)に動く』という点が、お気に召しているらしい。

前足でいじっては、物陰に隠れてみたり。
人間が使う扉の脇、猫が出入りする為の場所を何度も往復したりしている。

通り過ぎるだけのつもりだった豹柄混じりの黒い猫は、塀の上から彼女を眺める事にした。
大きな身体を塀の上に伸ばして、長い手足を投げ出して。
尻尾の先を舐めていると、彼女はこちらに気付いたようだ。

「よお、シラバブ」
「タガー!」

慕っている年上の猫に名前を呼ばれたのが嬉しくて、彼女は塀の下まで駆けてくる。

「マンカストラップなら、今日はもういないよ」
「ああ知ってる」

だからここに居るんだと言ってあくびをすると、尻尾をくるくると振ってやった。

「なんでオレがマンクを訪ねて来なきゃならねんだって」

ひとり言のように呟くと、シラバブは背中を伸ばして返答する。

「だって…タガーはマンカストラップと仲良しでしょ」

シラバブは彼を見上げたままで尻尾を振ると、
先の方が雑草に当たる感触が楽しくて振り返って、また向き直った。
タガーは複雑な顔をした後に、年頃のメス猫が見たら大喜びしそうな笑顔を幼い彼女に向ける。

「…いいや、オマエと遊んでやろうと思って来たのさ」
「ほんとう?!」

ぱっと明るい表情になったシラバブだったが、すぐに何かを思い出して立ち上がった。

「ありがとうタガー…でもね、わたし今はひとりで遊んでるからまた今度ね!」

ぱたぱたと背を向けて走っていく。
その先には、さっきから夢中になっている紙くず。

「…そりゃ残念だ」

おかしくてしょうがなかった。
遊んでくれとせがまれれば、特にすることがなくても逃げる算段をするところだが。
遊んでやると言ってみたら、まんまとフラれてしまった。


「オマエ、いい女になるわ」


くすくすと笑いを堪えつつ、そのまま塀の上に留まる事にした。


天気、いまいち。

気温、低め。

ずっしりと空を埋めている雲。


しかし、なかなかいい気分だった。


cloudy weather. → くもり、曇天。
前半の二匹よりも、ずっと気楽に過ごしてるタガー。
天邪鬼なので、曇り空がご機嫌なお天気。

うちのシラバブは、結構強くて気ままな子猫です。
マンカストラップに似て、案外頑固でもあります。

【ひよこ】
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