マタタビなげこみたくなる衝動

ハレルヤ


「おい!!」
ふと、振り向くと見知らぬ少年猫が立っていた。
「いつまで、そこで泣いてんだよ!」
「きみは・・・だれ?」
知らない土地に踏み入れてしまったが為に、この辺を縄張りにしている猫の子供達にさっきまでいじめられていた。
「そんなことどーでもいいじゃねーか、ほら!」
と、少年は手を差し伸べてくれた。




「うーん・・・」
懐かしいな・・・なんて思いながら、伸びをする。
夢なんて最近は覚えてない事の方が多いのだけれど、昔の事なせいか珍しく目を覚ましても薄れていかない。
「ふぁ・・・」
少し早く起きてしまったようで、外はまだ薄暗い。普段ならもう一度寝直して朝日が昇るまで丸まっている。
「なんか会いたくなってきたな」
そんな独り言をつぶやいて、朝の散歩に出掛ける事にした。
勝手口に付けてくれた俺専用のドアをくぐり抜けて、外へ出る。
ぶるっ。思わず身震いをしてしまうほど空気は冷たかった。
「はー・・・」
息も白い。
「こんな中皆外で寝てるのか?」
飼い猫じゃない仲間の事が心配になってくる。
スタスタとアイツの縄張りの方に歩きながら、さっき見ていた夢の続きを思い出していた。




手を引かれながら疑問を問い掛ける。
「ねえ、きみはだれなの?さっきの仔達は?ここはどこ?」
取りあえず自分の知ってる場所まで引っ張って行こうとズンズンと進んでいたが、立て続けに質問ばかりされてはちょっと疲れる。
「うっせーな!!ったく・・さっきまで泣いてやがったのに今度は質問ばかりしやがって」
それでも引っ張って歩く歩調は緩めない。
「だって、気が付いたらあそこにいたんだもん」
「何だ、オマエ迷子かよ?」
ははっと笑われる。
笑われてマンカストラップはムッとした。
「オマエじゃない!!」
勢いよく手を振り払う。
「おっと」
「僕はマンカストラップだ!」
いきなりの行動に驚きつつも少年は笑顔で答えてくれた。
「俺はラム・タム・タガーだ」




ヤツの縄張りに入ったが、何の変化も見られず。
『居ないのか』
匂いは強く感じるものの、アイツの気配。つまり、縄張りに別の猫が入って来たといのに威嚇する声も、その姿さえ見せない。
どうしたものかと、思いつつも彼が寝床にしている場所まで辿り着いてしまった。
「なんだ・・・」
誰もいないのに、つい安心して声に出てしまった。
なんの事はなく、彼はただ寝ていたのだった。
「まったく、警戒心ってものはないのか?」




「ねえ、ラム・タム・タガー?」
今にも舌を噛みそうな、教えてもらったばかりのその名前を呼んだ。
「タガーで良いよ、長げーだろ?」
「え・・・た・・タガー?」
今まで人間としか生活した事が無く、生まれたときは一緒にいたはずの兄弟達の事も全然覚えていない為。同じ猫を呼ぶ事なんて無かったマンカストラップはちょっと恥ずかしかった。
「なんだ?」
「さっきの仔達はどうしたのかな?」
そう聞くと、ラムタムタガーはニッ笑って得意げに答えた。
「俺がお払ってやった!」
「いや、そうじゃなくて」
期待していた物ではなく、否定されて調子がずれる。
「さっきの仔達は何で僕の事いじめたのかな?」
「は?!」
ラムタムタガーはびっくりした。
『コイツ本当に猫なのか?』
「どうしたの?タガー」
びっくりしたまま固まっている、ラムタムタガーが不思議になって声を掛ける。
「オマエ・・・大丈夫か?」
「え?何が?」
ぽかんと答える。
「普通知らないやつが自分の縄張りに入り込んだら追い出すだろ?」
「?」
どうやらコイツにとって普通が分からないらしい。
「あ、オマエじゃなくてマンカストラップだってば!」
どうでも良いことには突っかかってくるのに。
「そんな事はどーでもいーんだよ!」
「どうでも良くないよ!名前は大事だぞ!」





「タガー?」
安心しきって眠っている寝顔に向かって呼びかける。
「なんだよ」
眠っていると思っていたので、ちょっと驚いた。
「起こしてしまったか?」
眠っていた体勢のまま、目も開けずに答えた。
「起きてたんだよ」
「そうか」
タガーの横に腰を下ろすと、彼は眠たそうに欠伸をする。
「ふぁ~」
「無用心だぞ」
「ん?何がだ」
目を開けたタガーは、顔だけこちらに向けて聞く。
「誰かが、お前の縄張りに入ったというのに・・・」
「お前だからだ」
「は?」
意味が分からず、疑問な顔をタガーに向ける。
「だからー」
真面目が取り柄なリーダー猫に説明してやる。
「誰かがじゃなくて、お前って分かったから起きなかったんだよ」
「そうか」
言われた意味が分かってしまったので、そうとしか答えられずに顔を背けてしまった。
「うー…なんだよ?」
伸びをしながら、こちらの様子に気がついた。
「いや・・」
「ん?まだ日も昇ってねーのかよ」
「すまない、つい懐かしい夢を見てな」
「懐かしい夢?」
ごろんとまた横になる。
「ああ」
マンカストラップは頷くと、目を細めて遠くを見つめた。




「お前飼われてんのか?」
「そうだよ」
少年の首には、立派な黒い首輪が付いていた。
「タガーもでしょ?キレイな石だね、それ」
ラムタムタガーの首にも、蒼い石の付いた高そうな首輪が付いていた。
「ん?まーな♪」
ちょっと自慢げに笑ってみせる。
「ラムタムタガーって名前もかっこいいね、強そうだし」
「強そうじゃなくて、強いんだよ!俺は!」
誉められてラムタムタガーは気分が良かった。
「そうだったね、さっきの仔達からも助けてくれたんだよね」
マンカストラップは笑顔でお礼を言う。
「ありがとう、タガー」




「おい!」
呼ばれてちょっとびっくりしたマンカストラップは、意識をその場に戻した。
「遠い世界にいくなよ」
「すまない」
今度はそのままタガーを見つめる。
「何だよ?」
「いや、でっかくなったなぁと思ってな」
「はぁ!!」
「昔は小さかったから」
タガーも突拍子もない性格だが、マンカストラップも相当である。
「オマエなー・・・ガキんときゃ誰だって小さいだろーがっ!」
「そうだが、昔はもう少し素直だった気がするんだが・・・」
タガーの顔をじっと見ながら考える様に右手を顎に持っていく。
「おめーは泣き虫だったなー」
ちょっとムカついたタガーはニヤニヤしながら言ってやった。
「うっ・・・・!」
マンカストラップは真っ赤になって、タガーを睨みつける。
「あの頃は可愛かったのになー」
「うるさいぞ!」
「いっつも俺の後ついてきてさー何かってーと直ぐ泣きまくってさー」
「いーかげんにしろ!」
マンカストラップの怒りも本気になってきたので、これ以上からかうのを止めた。
「でも、強くなったよな?」
「どういう意味だ?」
「今じゃ皆のリーダーだもんなー」
少し明るくなってきた空を見上げて言った。

「オマエのお陰だな」
「ああ?」
「オマエが喧嘩の仕方も、悪戯も全部教えてくれたからな」
「まぁな」

自慢げに頷く。
そんなタガーの様子を見て、あの頃の自分のままで言った。

「ありがとう、タガー」



終わりです・・・でもちょっと続きが書きたい今日この頃ですが、きっと続きは裏いきだと思います。
マンクが泣き虫な話しが浮かんで、マンクが泣き虫ならタガーはガキ大将と安易な発想です。
とにかく泣いてて欲しい我らがリーダー☆

【マリ】
LinkIconBACK