マタタビなげこみたくなる衝動

コイバナpart2


恋の話。

略して、コイバナ。

パート2。


うららかな午後。
年に一度の舞踏会も近くて、みんなソワソワしているけれど。
やっぱり昼間はひたすらに眠い、ねむい、ネムイ。

教会の裏の庭に、若いオス猫が一匹。
クリーム色の耳をぱしぱしと動かして、ゆっくり目を開けたが…また閉じる。

「…ふ、わぁ~…っ」

誰もいないので隠すことなく、今日何度目かのあくび。

少し前までここに居たメス猫たちは、連れ立ってどこかへ遊びに行ってしまったようだ。
年長のカップル猫2匹が現われて何か話していたところまで見ていたが、
少しウトウトしていたら次に目を開けたときには誰もいない。
あんなに騒がしかったのに、ウソのようだ。

ああでも、彼女だけは静かだったなぁ。
割と仲が良いらしいメスの三毛猫と一緒に来ていて、一言も話さなかったけれど少し笑っていた。

「…かわいかったなぁ…」

えへへーと笑って、ゴロリと寝返りをうつ。

「誰が可愛かったの?」

突然声がして、飛び起きる。
いや、ここは長老のいる教会なのだから多くの猫が訪れるし、誰が来ても驚く必要はないのだが。
ひっそりと静まった陽だまりで、木々が風に撫でられる音を“ひとりで”聞いていたところだったのに…

「ごきげんよう、コリコパット」

友人の黒猫は最初の一言を発したとき既に、自分のすぐ隣にいたのだ。

「びっ…くりしたよ、ミストぉ」

ぷうと頬を膨らませて抗議する。
少し寝ぼけた顔がおかしくて、ミストフェリーズは笑いを堪えながらごめんねと舌を出した。

「それで誰が?」
「ん?」
「かわいーって言ってたじゃない、さっき」

コリコパットの顔が赤らむ。
ぷいとよそ見をして、べつに…と後ろ足で頭の後ろを掻いた。

「まあいいけどさ…確かにキレイだよね、真っ白で、月が似合って」

ミストフェリーズの呟きに、緩んだ顔でうんうんと頷くコリコパット。

「…やっぱりヴィクトリアの事なんだ」

「…ぇ…あ。」

にっこり笑って、尻尾の先を細かく振るミストフェリーズ。
耳をへたりと寝かせて、地面に張り付いたコリコパット。

「君のね、そういう素直なとこ見習いたいなぁ」
楽しくてしょうがないという風に笑いながら、うなだれるコリコパットの隣に腰を下ろす。

「…今のずるいぞぉ」
ぷーと膨れて、耳をぱしぱしと動かす。

「そっかー、コリコはヴィクに恋しちゃってるんだねぇ…」
「…だっ、誰にも言うなよっ!」

がばっと起きて、ミストの白い耳をぴしりと前足でつついた。

「言わないよ、約束する」
みんな知ってるけどね…と心の中でだけ付け足して笑いを堪える。

なにせコリコパットはヴィクトリアが集まりに出てくると、
それまでじゃれていたギルバートをほっぽって大人しくなってしまうから。
多分気付いてないのはリーダーと、ヴィクトリア本人…あとは興味のなさそうなのが数匹、といったところか。

「ミストはいいなぁ」

小さく溜息をつき、前足を揃えてぐっと突き出すようにクリーム色の背中を伸ばす。
つい一緒になって伸びをしたミストフェリーズは、ぱちぱちと瞬きをする。

「なぁに、突然」

「…ミスト、踊るの上手いからなぁ…きっとヴィクとだったらカッコイイもん」
いいなーと言いつつも、2人が踊るのを見てみたいというコリコパットの無邪気な声が耳に心地良い。

「コリコだって、ダンスもジャンプも得意じゃない」
ヴィクトリアを誘えばいいのに…と、本当にいつもそう思っていたから提案。

しかし、途端に真っ赤になって首を振るコリコパット。

「でもおれっ…やった事ないよ、ペアでとか、そういうの…っ」
「ああいうのは、場数だよ」

ミストフェリーズの言葉にコリコパットは、ふと不思議そうな顔をした。
「…ランパスとおんなじ事言うのな」
そのコリコパットの言葉に、今度はミストフェリーズが複雑な顔をする。
あの白黒ぶちの年長猫が、女性を扱うところというのは…ついぞ見た事がなかったからだ。

「…ランパスがそう言ってたの?」
「うん」
「へえ、意外」

コリコパットが以前聞いたのはランパスキャットに喧嘩の仕方を教えてくれとせがんだ時のものなのだが…
今日のこの会話では、ミストフェリーズに誤った情報が伝わったに過ぎなかった。

「そういえばミストは、よく女の子と踊ってるよね…」

ともすれば自分より幼く見えるこの黒猫は、実のところ年上らしく、メス猫たちが見る目も少し違う。
ダンスも得意なようで、くるくるとよく動いて…女性を誘うのもそつない。

「コリコもやってみなよ…練習付き合ってあげようか?」
「…へ?」
「ヴィクのどんなとこが好き?」

唐突な質問に驚きつつ、それなりに答えを思案する…が。

「…なん、なんでそんなことっ…ヤだよ、そんなの言うのぉ」

考えた後で居心地悪そうに耳をぴくぴくと震わせながら、抗議するコリコパット。
しかしミストフェリーズは笑顔のまま、更に続ける。

「いやあ、イメージするってのが大事なんだよ…まあいいや」

コリコパットの額の毛を摘んで引っ張ると、指先にフッと息を吹きかけた。
彼が“何か”をする時の仕草だ、とコリコパットが思って見ると…

「…ッ…ぇ…?!」

隣ですらりと立ち上がったのは、真っ白いメス猫。
突然のことに目を見開いて毛を逆立てているコリコパットに…“彼女”はふわりと微笑んだ。

「…ぇ、あの…っミスト…ッ?!」

今ここにいたはずの友人を探して、辺りに視線を走らせるが誰もいない…涼やかな風が吹いただけ。
慌てて視線を戻すと、彼女はついと背中を向ける。

いつも見ていたから分かる。
彼女が踊り出す瞬間の空気。
まるで、辺りは無音の世界になる。
その静寂は切ないようでいてとても柔らかな、月の光に似てる。

心地良いと、いつも感じていた。

立ち上がって、1歩前へ…精一杯の勇気で、彼女の肩を抱き寄せる。
純白の背を包んで、くるりと回るしなやかな腰と、弧を描く尻尾を追って。

2歩、3歩…同時に踏み出して彼女の跳躍を支えると、まるで宙に浮くように持ち上がった。

『…ぅわあ…っ』

目の前の彼女の姿と、何の気負いなくその純白の身体に触れられた自分…声にならない感嘆。

静かに降り立った彼女は、また微笑んで。

コリコパットは不思議な気持ちで、たった今彼女を支えていた自分の手のひらを見た。



「ほら、ちゃんとできるじゃない」



友人の黒猫の声で、我に返る。

少し、夢を見ていたようだ…彼女と踊っている間、月夜のジャンクヤードに居た。

しかし、ここは教会の裏庭。
うららかな午後。

「コリコは優しいし、相手の事を想えるから…きっと上手く踊れるよ」

大丈夫、大丈夫、と言って笑うのは不思議な黒猫。

「…なに、今の?!ミストだったの?…え、魔法?」

「たいしたコトしてないよ…僕には普通」

ウィンクして見せるミストフェリーズ。

驚いて、脱力。
へたりと座り込み…なんだかとても楽しい気分になったので、コリコパットも笑った。
それは、ある日の午後。





そして年に一度、特別な満月の夜。


コリコパットは気がついた。
この月は、いつか教会の裏庭で見た、夢のような光景と同じ。


白銀の猫が満月に手を伸ばす。
その姿に、息をのむ。


まず近付いたのは、夜空を切り取ったような黒い猫。
彼は瞬間、振り返って微笑んだ。


それに微笑み返して…躊躇わずに、彼女の元へ。
月の光の下で、2匹の猫が踊りだす。


そして、他の猫たちも。


―― ジェリクルキャッツ 出会うぞ

―― ジェリクル 今夜 舞踏会


『コイバナ』は女の子の話だったので、こっちは男の子。
女の子はみんなできゃーvって話すけど、男の子はこう、コッソリと?(笑)

舞台で、ミストがヴィクトリアのとこへ出てきて、でもすぐにコリコにスポット当てて去りますよね。
なんかね…余裕?みたいな、2匹を応援?してるみたいに見えて。
あのシーン、すごく好きなんですよ。ペアダンスではあのコリコとヴィクが一番好きかも。

という訳で、コイバナpart2でした★

2005.10.23 【ひよこ】

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