コイバナ
恋の話。
略して、コイバナ。
うららかな午後。
クローバーを茎ごと5本摘んできて。
そのうち1本を“当たり”に決める。
あとの4本は葉っぱを落として茎だけに。
「いーい?じゃあ、せぇーのっ…」
掛け声をかけたのはジェリーロラム。
この中で一番若いジェミマはちょっと複雑な顔。
当たりませんよーに!と念じながら、わくわくしているのはランペルティーザ。
タントミールは特に気負わない様子を装って。
この遊びに初めて加わるヴィクトリアはいつも通り表情を変えず。
傍観者として、しかしとても楽しそうにみんなを見つめるのはカッサンドラ。
男性でありながらこの場に居る事に許可が下りたのはタンブルブルータス。
若いメス猫みんなが1本ずつ持ったクローバーの茎の端。
“当たり”の葉っぱを含む5本のクローバーを隠していたジェリーロラムの手がぱっと開く。
自分の持った茎の先を、各々が確認。
「あら。」
最初に声を発したのは、カッサンドラだ。
そのカッサの後ろに寝転んで目を閉じているタンブル以外の視線は全て
純白の猫に注がれた。
「ヴィクトリア、当たり~っ!」
高い笑い声と共に、パチパチと手を叩いたランペルティーザ。
みんなも続いて手を叩く。
「…何を話したらいいかしら?」
「今日のテーマで、ヴィクトリアが当たりって思いがけなかったわ」
ほっとした様子のジェミマが笑う。
「…でも、気になるとこよね」
タントミールは少し身を乗り出す。
「舞踏会だって、今度のが初めてよね」
にっこり微笑んだジェリーロラム。
「ヴィクトリアはキレイだもの、オス達はみんな狙ってるとみて間違いないわっ」
ぐっとコブシを握るランペルティーザ。
「そういえばここだけの話、コリコは絶対ヴィクトリア狙いよ!」
こそっとジェミマが囁くと、みんなはあーなるほどねと呟く。
「で?」
発言者の顔を順番に見ていたヴィクトリアに向かって、話を促すのはカッサンドラ。
「誰か気になる男性、いないの?」
今日のテーマは、恋の話。
当たったら必ず、何か話さなければいけない。
そういうルールと分かっていて参加したのだから、逃れられない。
「…気になる人…」
真っ白な形の良い耳をぴくぴくさせて、おもむろに口を開く。
「…ラムタムタガー?」
その発言に、その場に居合わせた全ての猫は毛が逆立った。
そして、その場に唯一のオス猫を除いた全員が身を乗り出す。
「ええぇえぇっ?!」
驚くのに精一杯のジェミマ。
「タガー!?タガーに興味あったのっ?」
初耳よ、と更に詰め寄るジェリーロラム。
「…意外、かしら」
静かに笑うカッサンドラ。
「どこらへんがいいの?顔?背の高さ?声もステキよね」
思い出してちょっとうっとりするのはタントミール。
「それとも、男はナワバリの広さで判断する系なの?ヴィクトリア」
それなら分からないでもないわ、と楽しげなのはランペルティーザ。
「みんな、彼のこと好きみたいだから…どんなところがいいのか、気になるのだけど」
ふわりと笑うヴィクトリアの発言に
全員が(この時ばかりはタンブルも若干)脱力した。
「気になるって、そういう意味でー?」
ジェミマは隣で微笑むヴィクトリアの肩にうなだれる。
他の猫も一様に緊張感をなくした。
「…ごめんなさい」
俯いたヴィクトリアの肩に額をすりよせて、ジェミマが笑う。
「あやまらなくていいのよ、ある意味すっごく面白かったわ、今の」
この街へ来て短いから仕方ないわ…と
カッサンドラだけはさっきまでと同じに笑っていた。
「それに、もしかしたらこれから恋に発展するかも…?」
ジェリーロラムの発言に、ランペルティーザはまたぐっとコブシを握る。
「そしたらライバルよ!それでいて戦友!」
「ヴィクトリアじゃ強敵よ?今までにこの辺にいないタイプだし…」
戦友なんて言ってられるかしら…と意味深に笑ったタントミール。
「あら面白そうね、私も混ざりたいわ」
うふふふ…とカッサンドラが加わると、側にいたタンブルがガバッと起き上がった。
「冗談よ」
分かっていたのに反応してしまった事と、ずっとみんなの話を聞いていた事がバレたので…
少し赤くなったタンブルは背中を向けて寝転んだ。
「いいなぁ、カッサンドラ」
愛されてるって感じよね、と茶化すように、でも羨ましそうに呟くランペルティーザ。
ジェミマ、タントミール、ジェリーロラムも続いて口を開く。
「なんか、なんかイイわよねっ」
「タンブルは寡黙だし、今みたいな行動に価値あるわ~」
「タガーも面白いけど、一途って大事よね」
一人を除いて、うんうんと頷き合う女の子たち。
憧れの的である年長の猫は、背中を向けてしまったオス猫の頭を撫でる。
その2匹を見ていたのは、頷き損ねた白い猫だけ。
「恋するのって、楽しそうね」
どうしたらできるかしら?と首を傾げるヴィクトリアに、ジェリーロラムが提案した。
「次の舞踏会で、誰かと踊ってみたらいいわよ」
そうそう!と、ジェミマは我が事のようにはしゃいだ。
「ヴィクトリア踊るの上手だもの、ペアだってこの前マンカストラップとやってたじゃない」
タントミールとカッサンドラも勧めるが、ヴィクトリアは自信なさげに視線をさまよわす。
「そうだ!じゃあまず、私達と一緒でどお?」
ランペルティーザが飛び跳ねるように立ち上がる。
「去年、タガーと一緒に踊ったじゃない?あれにヴィクトリアも入れてみんなで!」
タガーはどうせ自分の好きなようにしか踊らないのだから
一人くらい増えてたって同じでしょ、と笑う。
ヴィクトリアは少し何かを考えて…
「…みんなと一緒なら」
立ってランペルティーザに並んだので、あとの3人もその気になる。
「楽しそうね、私も混ざりたいわ」
うふふふ…とカッサンドラが言うと、タンブルはぴくりと耳を震わせて目を開ける。
「冗談よ」
2人のやりとりに羨望の眼差しを送って、溜息をつく4人。
「まあ一度、実際にタガーを追っかけてみる必要もあるわね!」
犬や人間に追われるのはキツイけど、タガー追うのは楽しいわよ!
とランペルティーザは高い声で笑った。
私にもできるかしら?と首をひねるヴィクトリアにジェミマが言う。
「タガーは気が向けば、私たちでも追える速度で逃げてくれるから」
「でもタガーを探すとこから始めなくちゃ」
ジェリーロラムがランペルティーザを真似て、ぐっとコブシを握る。
「一人増えて、なんだか楽しくなってきたわねぇ」
ヴィクトリアはタントミールの言葉がとても嬉しかったので、笑ってうなずいた。
ダンスの立ち位置の検討から、タガーの特性についてまで…
笑い声は日が暮れるまで途切れることなく。
「女の子は可愛いでしょう?」
うふふと笑うカッサンドラに、タンブルブルータスは返せる言葉を探したがみつからなかった。
しかし、返答などないと知っていたカッサンドラは
ただずっと微笑んだまま、みんなを見守った。
女の子たち、大好き!
みんな可愛い。
【ひよこ】
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